2019年5月29日水曜日

大阪環状線考 【その2・西側編】

大阪環状線の小旅行の続きである。ただいま西側区間のカオスを堪能している。

さて大阪駅から環状線を内回りで天王寺に向かっているが、輸送量を比較すると環状線は東側に比べて西側の方が少ないと言われているようだが、実際に乗ってみると結構な混雑だ。
もちろん大阪駅でほぼ8割方の乗客が入れ替わるが、その段階で座席はほぼ埋まるのは当然として、立っている乗客もかなりいる。特に転換クロスシートの車両だと通路に立つのは少々窮屈だ。人間贅沢を覚えるとわがままになるもので、こうなるとやっぱり都会の電車はロングシートでないと・・と思ったりする。
大阪を出て最初に大きく乗客が入れ替わるのは西九条で、ここでかなりの人々が桜島線に乗り換えるようだ。もちろんほとんどがUSJを目指す人たちだ。
西九条で下車して関空快速を見送る
3線2面ホームの中線にちょうど桜島行きの折り返し電車が止まっていた。
USJのラッピングが施された201系6連だ。残りわずかとなった活躍の時をこうしてUSJの来場者を迎えている。華やかなラッピングはUSJに向かう人たちにとってこれだけで期待が膨らむこと間違いなしだ。TDLを沿線にかかえる京葉線でも同じような演出をしても良さそうなものだが、そこはUSJ専用線みたいになっている盲腸線のような桜島線ならではだろう。そもそも王者ディズニーがわざわざそんな演出を必要としていないのかもしれないが。


この中線を使った桜島線の折り返し列車は日中15分間隔で運転されている。12時から16時までは大阪環状線からの直通列車の設定はないので、この時間帯は全てここで乗り換えることになる。
桜島行きを見送り次の内回り列車を待っていると、次は通過列車との案内が流れた。関空行きの特急「はるか」の通過だ。当然環状線内回り側の4番線を通過すると思って点字ブロックの内側で通過を見送ろうと思っていたら、なんと驚いたことに「はるか」はわざわざ窮屈な中線の3番ホーム側をそろりそろりと通過した。両側にホームがある上に、中線に向かう駅の前後のポイントは側線として分岐しているので減速を余儀なくされている。
あとで確認したら、新大阪方面につながっている貨物線は西九条の北まで環状線の西側を単線で並走して、西九条駅の手前で外回り線を平面交差して駅構内に進入するようになっている。この頻度で走っている環状線を阪和線方面の特急が平面交差するという、ダイヤ編成上は相当に苦しいレイアウトだが如何ともしがたいところなのだろう。池袋駅で湘南新宿ラインを立体交差にしたような大工事をすればいいのだろうが、輸送量との兼ね合いであまり投資効果がないということなのかもしれない。それにしてもここでも大阪環状線のカオスの本領発揮である。
さてまず西九条を「制覇」したので、さらに内回りを天王寺に向けて南下することにした。今度やってきたのは関西線の加茂行「大和路快速」だ。余談だが221系は個人的に好きな車両だ。車体色もデザインも洗練されているこの車両を見ると、自分のような昭和派にとっては「ああ関西にきたなぁ」と感じさせてくれる。
加茂駅というと東日本の人間には新潟県の駅が先に思い浮かんでしまうぐらい、どの辺にあるのかいささかピンとこないのだが、あとで調べたら関西線の大阪側の電化区間最東端だった。さらに駅があるのは奈良県かと思ったら京都府木津川市だった。これまたあとで調べたところ木津川市は京都府内では京都市に次いで国宝・重文が多いそうだ。今度は終点まで行ってみたい。

ということで次に降りたのは大正駅である。なぜ大正を選んだかというと、大正駅東側にかかる木津川橋りょうをホームから間近に観察したかったからだ。木津川というくらいだから、加茂方面から流れてきている川であることはいうまでもないので、加茂行きの電車を降りて木津川を望むというのはちょっとした偶然である。
それにしても休日の昼下がりとはいえ、列車がいなくなるとホーム上は全く人気がなくなっているではないか。このあたりは山手線とは大違いだ。
さてその大正駅のホームから見た木津川橋りょうは複雑に構成された鉄骨の造形美が実に素晴らしい。何よりも普通の鉄橋と比べてトラスの高さが極端に際立っており、特に線路側(進行方向)から眺めるとその異様に圧倒される。鉄橋の上部はX字型に鉄骨が組まれており、相当に複雑な構造になっているのだ。このX字部分がなければ2階建ての鉄橋ができそうだ。車内からこの鉄橋を渡っているときに車窓を眺めると、鉄のカゴの中を走っているような光景を見ることになる。このような鉄橋はまず国内ではまずほとんど見る機会がない。これは近くで見ないわけにはいかない。


 改札を出て環状線の高架沿いを天王寺方向に歩くこと5分ほどで木津川橋りょうの真下にたどり着いた。真下から眺めると一段と幾何学模様が美しい。横から見ると鉄橋全体がほぼ長方形の箱のように見えるが、実際には橋りょうの両端は河川と交差する角度に合わせて斜めに構成されている。よく見ると線路に対して直行する横方向をつなぐ鉄骨はトラス様の構造になっていて、さらに鉄橋本体のトラスの上段をX字型につなぐ鋼材はここから見ると儚いぐらい細く見える。この複雑な組み合わせが独特の造形美を形作っているのだ。トラスを形作る鋼材が横から見るとすべてX字型に交差しているこのような鉄橋の構造を、ダブルワーレントラスというそうだ。
 大正駅の大阪寄りには同じダブルワーレントラス構造の岩崎運河橋りょうがあるが、どちらも鉄道遺産に指定されている。完成からすでに100年近く経っているが、こうした「産業革命」を彷彿とさせる土木遺産が今もこうして現役で見ることができるありがたさを実感する。ちなみにこのタイプの鉄橋は景観を乱すだけでなく、車窓からの眺めも阻害するという理由で国内ではほとんど採用されなかったそうだ。確かに都市空間にこの威容が突然現れたら、今では明らかにアウトかもしれないが、不思議なものでこうしてみると都市の風景にしっかり溶け込んでいるように見える。
それにしても同じダブルワーレントラス橋でも、このような長方形をしたものはいろいろ調べてもほとんどお目にかかったことがない。文献によると設計を急いだことでこのような構造を選択したということだが、質実剛健というか実用一点張りで作られた、そのぶっきらぼうな佇まいもこの橋の魅力なのだ。
ちなみに環状線の木津川橋りょうの南側にかかる市道の道路橋「大浪橋」もかなりいい雰囲気を見せている。こちらは木津川橋りょうの10年後に完成したタイドアーチ橋という構造の橋だ。その独特な美しい姿も、木津川橋りょうと仲良く「水の都・大阪」の美しい景観を形作っている。こうした川と橋の風景を見ていると、否が応でも「悲しい色やね」(当然上田正樹版)が頭の中でエンドレスに流れてしまうのは昭和生まれの性といっていいだろう。


 ほんの10分ほどの間に次々と列車が鉄橋を渡っていく。多彩な顔ぶれの車両はいつまで見ていても飽きないが、きりがないので再び駅に戻ることにした。

大正駅のガード下は「これぞ大阪」といったムード満載の飲食店が軒を連ねている。もちろんお約束の午前中から一杯ひっかけられる店も開いている。気になる。。ちょっとばかり後ろ髪を引かれつつ、天王寺に向けて環状線の旅を続ける。(続く)