2019年6月11日火曜日

【臨時停車】北海道新幹線トンボ返りの旅

大阪を旅しているが、ここで話題を一時“途中下車”して先日の「ロングシートの旅」後に訪ねた北海道新幹線の話をひとつ

今年4月のダイヤ改正で、北海道新幹線のスピードアップが図られた。青函トンネル内の最高速度がこれまでの140kmから160kmに引き上げられたことにより、東京・新函館北斗間の所要時間が最速列車でついにわずかながらも4時間を切って3時間58分となった。今回はそのスピードアップした区間を実体験しつつ、北海道新幹線の現状を観察してきた。
アーティスティックなイメージの新青森駅前
さんざん秋田から701系のロングシートで揺られてきたこともあり、早くE5系に乗り込みたいところだが、乗り継ぎに少々時間があったので初めて新青森駅の駅前を見学した。私は新青森駅を利用したのはこれでもう5回目だが、改札を出たのは初めてだ。開業したばかりの頃は、本当に駅だけが「ポツンと一軒家」状態だったが、今ではだいぶ新幹線の駅前らしい雰囲気になってきた。とはいえ田園風景の中に近代的な駅舎だけが威容を誇っている様は、未だになんともアンバランスな感は否めない。
ということで早速東京からやってきた「はやぶさ15号」に乗り込んだ。北海道新幹線内は全駅停車の各駅停車タイプだ。

余談だが、新青森駅のホームは豪雪地帯の駅ということで全て屋根に覆われているが、大きな窓と天井を支えるトラス構造から見える景色がちょっと「ダブルワーレントラス」っぽい雰囲気を醸し出している。
新青森を出るとすぐに田園風景が広がる
ちなみに今回は「青春18きっぷ」の旅の番外編なので、新青森・新函館北斗間は「トクだ値40」を利用している。片道4500円弱、正規運賃なら約7000円なので名実ともにお得だ。したがって気分的にも余裕が出てくる。ということで「ロングシートの旅」完結編でちょっと触れた奥入瀬ビールで一服、と思った瞬間、対向するH5系による東京行き「はやぶさ24号」とすれ違った。滅多にお目にかかることのないH5系だが、この決定的瞬間を収めることに成功した。大した話ではないが何せ200kmを超える列車同士のすれ違いである。画面構成がひどいが写っているだけでラッキーだ。
それはいいとして、あらためて本題に戻る。午後の早い時間帯を走る北海道新幹線の乗車率はというと、いささか悲しいほどの空席が広がっていた。自分が乗車している8号車は車内を見渡したところ自分を含めて6人だけだ。まあ平日の昼下がりということを考えればこんなものなのかもしれないが、これではさすがに心配になる。ただ津軽海峡を越えて北海道への旅を誘うJR北海道の乗務員の素朴な車内アナウンスが気持ちを和ませてくれる。いいぞ。頑張れ、JR北海道。
事実上貸切状態の車内
そんなことを考えているうちに早くも「はやぶさ」は奥津軽いまべつに到着した。所要時間わずかに15分。果たして乗降客はいかに?と思って車内からホームを見渡したところ、わずかに数人の人影が見えただけだった。こうなるといよいよ「こんなところにポツンと新幹線の駅」と言わざるを得ない。
当分列車が来ない上りホームは当然人影もなく無人駅のよう
乗っている側からすれば、がら空きの列車は思いっきり羽を伸ばして寛げるという点では全く文句はないのだが、JR北海道の実情を考えるとどうにも複雑な気持ちにならざるを得ない。
列車は誰も乗車しなかった奥津軽いまべつを定刻通り出発して、ほどなく青函トンネルに突入した。ここからが今回のスピードアップ区間だが、実際に乗っている体感はこれまでとそう大きく変わらない。ただスラブ軌道を疾走する走行音は以前より少し大きくなっているような気がしたが、多分これは気のせいだろう。
実は自分は北海道新幹線が開業した2016年3月26日の当日、東京から新函館北斗まで下り最終の「はやぶさ37号」に乗ったのだが、この最も華やかな開業初日の最終列車ですら既に今回の「はやぶさ15号」と概ね同じ乗車率だったことを思い出した。新函館北斗着が23時を過ぎるとはいえ、いかにも寂しい開業初日の最終列車だった。2019年現在でも臨時列車と区間運転の「はやて」を含めて1日15往復しか列車が設定されていないのも無理はないが、この状況を札幌開業まで続けることになると、いよいよ新幹線までがJR北海道の経営を圧迫することになりかねない。本数が少ないから乗らないのか、乗客が少ないから本数が少ないのか、とにかく何でもいいから乗ってもらう方策を考えないとどうにもならない。


青函トンネルを約20分とちょっとで走り抜けるとそこはもう北海道だ。これまた車掌による北海道乗陸を告げるアナウンスが流れ、一段と北の旅の気分を盛り上げる。なんだかんだ言ってもやはり鉄道で、それも乗り換えなしで北海道にやってくるという体験は格別だ。
最後の途中停車駅、木古内の乗降も奥津軽いまべつよりは微増したとはいえ、やはり利用者の姿はまばらだった。木古内を過ぎると進行方向右手に函館山が見えてくる。東北・北海道新幹線ではナンバーワンの絶景ではないだろうか。否が応でも「はるばる来たぜ、函館へ」と言いたくなってくる。

新青森から1時間2分で新函館北斗駅に到着した。全駅停車のはやぶさでもほぼ1時間で津軽海峡を越えてくるのだから、あらためて新幹線の凄さというかありがたさを実感する。さすがに新函館北斗では結構な人数の人たちが降りてきた。それでも3割程度の乗車率といったところだろうか、少ないことには変わりない。ただ、自分は北海道新幹線の利用はこれで4回目だが、回を追うごとに明らかに外国人観光客の姿が増えてきている。外国からの観光客のみなさんにとっては、やはり「ニホンのシンカンセン」に乗ることそのものが観光目的になっているのかもしれない。こうした人たちの一層の掘り起こしも必要だろう。
さてこちらもいくら新幹線に乗ることだけが目的とはいえ、このまま新函館北斗で本州方面にとんぼ返りするのはいかにも頭が悪い。この際なので、函館まで足を延ばすことにした。

この「はやぶさ15号」に接続する函館方面の列車は約14分の待ち合わせで発車する「はこだてライナー」があるが、その11分後には普通列車の函館行きがやってくる。
ここまで散々ロングシートに乗ってきた身としては(好き好んでやっているのだが)、ここはやはり北海道の大定番「キハ40」に乗らない手はない。いや、そうでなくては北海道の鉄道に失礼だろう(なんで?)。ということで11分の余裕時間は「サッポロクラシック」で一服することにして、普通列車函館行き4834Dを待った。意外にも「はこだてライナー」を見送って、こちらの普通列車を選択した外国人観光客もちらほら散見した。

とはいうものの、乗ってみればキハ40の単行運転にもかかわらず車内はガラガラ、北海道のローカル線ムード満載だ。それにしてもやはり国鉄時代そのままのムードを残す対面式クロスシートは旅情をかきたてる。重厚なディーゼルの音が昭和の旅を思い出させてくれる。こうなるとBGMは必然的にクリームの「WhiteRoom」を聞かざるを得ない。しかしながら、このキハ40の普通列車、はこだてライナーの733系と比べると「大丈夫か?」と思ってしまうほど遅い。このあたりは線路の問題もないはずだが、鉄道には興味がない人にとって、それも急ぎの旅にはいささか不向きだろう。
新函館北斗を発車すると、進行方向右手に北海道新幹線の函館新幹線総合車両所が間近に見えてくる。まだ部分開通の輸送量に合わせた小規模な車両基地なので、空き地が目立つ。その広大な敷地に青函トンネル内での不測の事態に備えて待機しているH5系1編成だけが留置されているのが車窓からもよく見える。そもそもここにはH5系4編成しか所属していないのだから仕方がないが、いささかさみしい光景だ。それにしても救援用に新幹線1編成を常に待機させているというのも、経営難にあえぐ会社のやっていることとしては何ともいえないが、世界一贅沢な救援車であることは間違いない。救援用ならばお古のE2系あたりをドア位置だけ合わせて改造して使う手もありそうだが、そこまで投資する方が無駄ということなのだろう。それにしても安全対策とはいえ勿体無い感じは否めない。
ノロノロとのんびり走ること26分で終着函館に到着した。広大な構内には「道南いさりび鉄道」のカラフルなキハ40系が止まっていた。がらーんとした構内にちょっと華やかな彩りを添えている。
さて、はるばる来た函館だが、帰りの列車までの余裕時間は2時間弱しかない。駅前で時間を潰す以外、どこに行くこともできないのでとりあえず函館市場の空いている店で海鮮丼をいただいて(もちろんサッポロクラシックは必須だ)駅前に戻った。
入り口が閉鎖された本館 駅に近いアネックス館は「函館駅前ビル」として新しいテナントが入居している
函館駅前には「棒二森屋」という老舗百貨店があったが、残念ながら2019年1月でデパートとしては閉店してしまった。「ぼーにもりや」というインパクト抜群の店名だが、秋田の「木内」と並んで90年近い歴史を持つ地方百貨店の雄として地元函館の商業を支えてきた。しかしながらイオンのような郊外型大規模店舗の進出やネットショップの普及で売り上げは減少し続けたという。函館の「棒二森屋」は正式には「中合棒二森屋店」という名の通り、晩年は福島・青森で百貨店を運営している「中合」傘下のデパートだった。店内には無印良品や北海道では数少ない成城石井の商品を扱う食料品売り場が入っていたようだが、皮肉なことに新幹線開通後の駅前周辺再開発でテナントの退出が進んでしまったことも経営を圧迫したようだ。
「地方百貨店巡り」は馬鹿列車の数少ない旅行目的の一つだが、こうした歴史のある地方のデパートが姿を消すのは実に残念だ。残る各店は馬鹿列車が行くまで頑張っていただきたい。


駅前をこれまたカラフルな市営の路面電車が結構な頻度で行き来しているのをしばし見物して、再び函館駅に向かった。今度は「はこだてライナー」で新函館北斗まで向かう以外の選択肢がないので、再びロングシートの小旅行となる。
ラベンダーカラーの帯がイカした733系1000番台だがロングシートはいただけない
それにしても、これは既に多くの人々から意見が上がっているが、いくら20分弱の乗車とはいえ、東京から新幹線で来てくれたお客をロングシートの3両編成に乗せるという感覚はなかなか理解に苦しむ。そもそもロングシートが必要になるほど混むのなら、その時は6連にすればいいだけだし(実際に繁忙期は6連になる)、この乗車率ならば常時転換クロスシート車で十分だ。そういう意味では秋田・青森地区の701系どころの騒ぎではない。4時間も新幹線に揺られて、重い荷物を持って北海道までやって来たのに最後に通勤電車然とした列車に乗せられてはたまらない。何かとロングシートの方が管理しやすいし経営が大変なのはわかるが、「道南いさりび鉄道」を見習ってもう少し努力してほしいものだ。
帰りの列車は今回のダイヤ改正で東京~新函館北斗間の所要時間4時間の壁を突破した最速列車「はやぶさ38号」だ。新青森までノンストップ、新函館北斗・新青森間を57分で駆け抜ける「いだてん」である。乗車前に新函館北斗駅のホームから延伸工事が進む札幌方面を望むと、2年前と比べて少しずつだが着実に工事が進んでいるように見えた。

ここからは自分の私見だが、最近までしばらくの間北海道(それも道北)に住んでいた経験から言わせてもらえば、本来ならば北海道新幹線は「札幌・新函館北斗」間を先行開業させて、それから本州と繋いだ方が戦略的にはどう考えても有利だったのではないかとつくづく思う。北海道は札幌〜函館間のアクセスが悪くどんなに頑張っても地上では3時間以上は移動にかかってしまう。航空機なら窮屈なサーブ340に揺られて45分だが、札幌側は新千歳かもしくは決してアクセスが良いとは言えない丘珠だ。もし新幹線で札幌函館間が1時間になっていれば、観光もビジネスも北海道全体の経済に及ぼす効果は絶大だったのではないか。いずれ「妄想馬鹿列車の回」で「札幌・新函館北斗」先行開業シミュレーションをやってみたいが、もしそうなっていたら新千歳経由の空路利用の狭間をつく効果的なダイヤも可能になっていたかもしれない。
ということで新函館北斗のキオスクで買ったサッポロクラシック春の限定ラベルを片手に、車中でそんな過去の夢物語に想いを巡らせているうちにウトウトしてしまった。惰眠を貪り始めた鉄道馬鹿を乗せたはやぶさは気がつくと既に津軽海峡を越えて既に新青森も過ぎていた。一路東京に向けて快走を続ける車内で、札幌まで新幹線で旅する日を夢見ながら再び眠りについた。