2019年12月18日水曜日

【観光馬鹿列車①】花嫁のれんの旅~後編

ここまで全く本題と関係のない話を続けてきたが「花嫁のれん」に乗るためだけの旅の後半、というよりやっとここから本編である。
前編でふれたとおり、「花嫁のれん」は運行日には1日2往復設定されている。下りの2本のうち1本は午前中に金沢を出発するが、あとの3本はすべて午後のダイヤだ。

これから乗ろうとしているのは和倉温泉を12時台に出発する「2号」だ。「花嫁のれん」の乗るだけなら普通は金沢から乗ればいいだけだが、実は1日4本の列車のうち、この「2号」だけが車内で地元金沢の料亭「大友楼」が監修した軽和食が提供されることになっている。もちろん別料金が必要だが、他の列車は金沢発の1・3号が「スイーツセット」、和倉温泉発のもう1本は和惣菜とアルコール飲料がセットされた「ほろよいセット」というように、列車によって車内の食事セットが異なっている。
つまり金沢発の列車はスイーツしか選べないので、飲んだくれの旅には少々物足りない。それならちょっと豪勢に地元の老舗が手掛ける弁当を目当てにこの2号に乗りに来たということである。
ここまで周辺をぶらつきすぎて少々疲れたので、早々に和倉温泉駅で乗車開始を待った。

まずは車両をじっくりと観察してみる。鉄道車両としては相当にきらびやかなデザインである。加賀百万石のイメージとでもいうのか、漆塗り調の色合いが目に鮮やかだ。

ちなみに種車はキハ40系の寒地向け仕様であるキハ48、2両だ。発車準備が整ったところで、アテンダントの出迎えをうけて早速車内へと乗り込んだ。


車内の壁一面、客室との仕切り戸も含め「金箔まつり」である。。これでもかというぐらいきらびやかな装飾が施されているが、そこは加賀の粋である。成金趣味のようないらやらしさは全くないが、少々やり過ぎの感がないわけではない。
なんとトイレの壁にも蒔絵が施されている
余談だが個人的には両開きドアの車両が特急用や観光列車になっていることにはいささか違和感がある。ドアが両開きになっているとはすなわち通勤列車のように乗降客が多く停車回数も多い列車であるという証明みたいなものだ。
したがってのんびり列車の旅を楽しむときに「どうも、両開きドアです。」といった出迎えを受けると何とも複雑なのである。そんなわけでJR九州の観光列車などはどれをとっても「うーん」と思ってしまう。もちろん種車の問題なのでどうしようもないのは百も承知だが、オール両開きの「或る列車」にいたってはどうにもこうにも納得できない。
きちんと(?)片開ドアです。
その点、このキハ48は片開ドアで車端部に位置が寄せられているので、実に気持ちが良いのである。とはいえとにかく全く個人的な感想にすぎない。
さて発車まで少々車内を探検してみた。
1号車の通路
2両編成で定員が52人とゆったりした車内は、金沢寄りの1号車が半個室構造、和倉温泉寄りの2号車は回転式の一人掛けの座席が向かい合わせになった2人用のボックスシートと固定式の4人掛けのボックスシートが配されている。
半個室風に仕切られた1号車の座席 こちらは2人用のボックス席

今回自分が乗車したのはオープン席の2号車である。固定式のテーブルをはさんで向かい合わせに一人掛けの回転シートが設置されている。ただ今回のように一人旅で利用した場合、見ず知らずの乗客同士でこの席に座ると少々気まずい感じになってしまう。その上テーブルの大きさも横方向の長さの割に前後の幅がなく、食事をとるにはちょっと中途半端だ。

自分が座っている反対側の座席 結構近い
いうならば「帯に短し襷に長し」的なサイズ感なので、残念ながら他人同士が向かい合わせで食事をするとなると、物理的にも精神的にもいささか厳しい。

向かい側のシートはテーブルとは逆方向に反転している状態
実は私の向かい側に座った女性は、やはり落ち着かなかったのか、こちらに気を使ってくださったのか、座席を180度回転して進行方向側に向かって利用していた。ただそうなると今度は隣のブロックの座席の背板が顔の前に迫ってくるような状態で座らなければならないので、それはそれで結構窮屈そうだった。その上、席を反転させてしまうと今度はテーブルが一切使えなくなってしまう。さらに写真ではわかりにくいが、この車両の窓は変則配置になっていて、上の写真で見ると極端に幅の狭い窓が2枚連なっており視界も狭い。このあたりの座席の配列にはもう一工夫あっても良かったのではないか。
とはいえ一人旅の利用を前提に設計するわけにもいかないだろう。この辺は利用する側で納得するしかない。

出発直前にのと鉄道の観光列車「里山里海号」と遭遇
さて列車は定刻通り、ディーゼルのうなりをあげながら出発した。ホームでは駅員と「花嫁のれん」のスタッフが手を振って見送ってくれる。
和倉温泉を出るとほどなく七尾に停車する。実は七尾駅の発車時の方が見送りの人数はよりにぎやかだ。七尾駅から乗車する利用者も結構多いのである。

七尾を発車するといよいよ車内サービスが始まる。車内で食事をとる乗客は、アテンダントが順番に座席を回ってくれるので、その際事前に購入したチケットを渡せばよい。後ほど座席まで持ってきてくれるくれるのだが、2人で2両の乗客に対応しているので少々時間がかかる。
ちなみに「花嫁のれん」のアテンダントは1列車に3名が乗車しており、うち1名は和倉温泉の加賀屋の客室係で後の2名は加賀屋で研修を受けたJR西日本の関連会社社員とのことだ。
ということでこちらは呑む気満々で利用しているので、食事を持ってきていただいた後は、急いでご開帳となった。

 こういう記事の場合普通は食事の中身をいろいろとリポートするところだが、詳細は「花嫁のれん」のホームページでご確認いただきたい。(つまり手抜き。)ただ少々お高めではあるが、味も上品な薄味でボリュームもまず満足のいくものであったということは付け加えておきたい。
それよりも少々気になるのは乗車時間との関係だ。和倉温泉12:08発のこの「2号」の場合、金沢到着は13:21。実際に乗っているのは1時間10分少々ということになる。食事が提供されるまでの待ち時間やあとかたづけの手間を考慮すると、実際に食事ができるのは30分ぐらいしかない。まるでJALの大阪・伊丹間の便でファーストクラスを利用しているようなドタバタに少々近いものがある。結構あわただしいのである。
加えてケチばかりつける様で申し訳ないが、外観や内装は大変美しく改装されているが、いかんせん中身はキハ48である。その上台車も従来のものをそのまま使用しているため、とにかく突き上げるような乗り心地は特急としても観光列車としてもいただけない。ディーゼルの走行音はオリジナルの車よりは少々静かには感じるものの、やはり足回りは手を入れてほしかったところだ。

などなど文句をつけているものの、自分はこのように「花嫁のれん」オリジナルラベルの百万石ビールと能登の地酒・宗玄純米吟醸ですっかりご機嫌さんである。流れる風景を楽しみながら、真昼間から一人宴会状態である。普通の列車の旅とは違った異次元の鉄道旅はいいものだ。



往路でも確認した通り、特に目玉となるような車窓風景もなく淡々と走り続けた「花嫁のれん」はあっという間に金沢市内に入った。なんだかんだ言っても、いつもと一味違う鉄道の旅を楽しませてもらった。


金沢駅では切り欠き式になっている4番ホームに到着する。もちろん発車もこのホームからだ。専用というわけではないが、一日ほぼ「花嫁のれん」が占有しているような状況だ。最後にもう一つケチをつけるようで心苦しいが、この4番ホームは結構な曲者だ。切り欠き式ということでお分かりの通り、通常のホームと比較すると随分と富山寄りに位置しているのだ。したがって3番ホームの先端部あたりから見ると、、、、
遠いなぁ。。。。
「花嫁のれん」の乗客は必ずこの距離を歩かされるのである。新幹線やサンダーバードの乗り継ぎがギリギリだったりすると結構まずいことになりそうだ。まあ観光列車に乗る人たちはそんなスケジュールは組まないと思うが、利用を予定している人は要注意だ。
というわけで観光馬鹿列車の旅は無事終了。金沢駅を後にする筆者の頭の中では、当然の如くあの「はしだのりひことクライマックス」の名曲が流れていたのである。 (了)